狂人のような不機嫌さだった。
そのような話も、私にはちと意外だった。
「だって、みんな、こうるさくて、気が利かなくて、先廻りばかりしているんだもの、癪にさわるじゃないの。」
「おかしいなあ……。なにも怒ることはないじゃありませんか。親切……お人よしの親切というものも、買ってやらねばいけますまい。」
「とんまだから、お人よしに見えるのよ。親切というものは、わたし、そんなものじゃないと思うわ。」
彼女のいう親切は、全く純粋無垢なものだった。人の顔を赤くさしたり、恥しい思いをさしたりするようなものは、どんな善良な気持からでたものにせよ、親切とはいえないのだ。本当の親切は、ただ自然な気持で、自然になされるものであって、相手の心に何の波も立てさせず、義務や負担はもとより、感謝の念さえも負わせないものでなければならない。――彼女の言葉を要約すればそういうことになる。そしてそれはもう、医者や俥屋のことを離れて、彼女自身のことを言ってるのだ。私に対する彼女のことを言ってるのだ。実際の事実もその通りで、私は無条件に承認しなければならなかった。――然しながら、彼女はどこでそういう親切を体得したのであろ
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