二階から飛びおりたり、船を焼きすてたりして、もう死んだのよ。だから、こんどは……。」
「それもよかろう。」
から元気か本当の元気か、そのけじめもつかない気持ちで、二人は酒を飲みはじめました。話もとぎれて、気がめいりそうなので、菊千代は小唄を口ずさんで微笑しましたが、ふと、清香さんを呼んでみる気になりました。
清香が来るのを待つ間に、菊千代は檜山に劣らず酒をあおり、酒の勢いで梅葉姐さんからの話をしてみました。
「誰がそんなことを考えたんだい。」
「だから、梅葉姐さんよ。」
檜山は両手で頭をかかえて、卓上に眼を据えました。まるで殴られでもしたかのようでした。
「だけど、そんなことになったら、なんだか違うわね。」
「なにが……。」
「今と違うわ。」
「そりゃあ、違うけれど……。」
「その方がいいの。」
「よくはないよ。だけど、ためしに、半月ばかりやってみるか。」
「ためしに半月ばかり……。」
「いや、一週間でよかろう。僕もついていくよ。」
「ほんとに行きましょうか。」
然しそれが、温泉へ遊びに行くのか、生活を立て直しに行くのか、まだはっきりしないうちに、菊千代は突然、胸がつまって涙を
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