くまとまっている故か、この山上、じっと眺めていると、なにか象徴的なものとして感ぜられる。
およそわが国の噴火口では、浅間のそれが最も端麗でもあり壮大でもあろう。直径七百メートルもあろうかと思われる円い火口は、中途から殆んど垂直をなして深くえぐられ、その底から、濛々たる噴煙に交って、地底の轟きがわきあがってくる。払暁、東天が白んだばかりで日光はまだささない頃、火口を覗きこめば、赤熱した熔岩のわきたつのが見られる。
それに比ぶれば、この御鉢火口は、なんとつつましく明るく、そしてあらわに自身を白日に曝してることか。だが、余りにあらわなものは、噴火口の如く熱火を内蔵する種類のものにあっては、凝視の上に象徴的な変容をする。内に恃むところある者の微笑がそこに見られる。
眼を転ずれば、火口より右方に、鹿児島湾から桜島まで、一望のうちに見える。御鉢火口を顧み、更にまた桜島を眺めて、その噴火口に私は思いを馳せる。桜島の頂は雲に隠されているが、その雲には噴煙が交っているのだ。
ただ悲しい哉、桜島は大正三年の大噴火の折、熔岩のため、大隅の方の海岸と陸続きになってしまった。あの美しい桜島、一日に七度も
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