いる。
高千穂河原からの第一段階は、灌木の茂みの中を登っている道で、地面は堅く、足がかりの岩石が突出している。
ここを通過すれば、少しく平らな尾根に出る。
尾根はすぐにつきて、急斜面が前方に壁立している。代赭色の火山礫に蔽われていて、踏みしめてもずるずると半ばは滑る。崩れおちた砂礫の色合で、漸く道筋は分るが、それも山肌一杯に拡がっている。つまり、まっすぐ一直線には登り得られず、稲妻形に登ってゆくのだ。或る所は真赤であり、或る所は黄色みを帯びている。
中途に、大きな岩石がつき出ている。ここで立止って、一息つくのだが、更にすぐ頭上には、一層大きな岩石が一つ、威嚇するようにつき出ている。どうしてもそこまで辿りつかねばならない。
青みを帯びたその岩石は、縦横に無数の深い亀裂がはいっている。その亀裂に驚かされて、なおよく見んものと、裾を廻って上方に出れば、もはや岩の亀裂などは問題でなく、足下に開ける噴火口に心は惹かれる。
海抜千四百メートルの御鉢火口である。直径五百メートルのこの火口は、正しい摺鉢型をして、底に赤褐色の水を少し湛えている。実に端正な可愛い火口だ。然しそれは、あまりによ
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