また忽然と、意外な景色が展開する。
ゆるやかな斜面に開けてる砂原だ。小石交りのその広い砂原は、昔の氷河の跡かとも見え、雪崩の跡かとも見え、或は大河の跡の河原かとも見える。処々に小さな灌木の茂みが風にそよいでいるだけで、広い平らな砂原の肌はぬくぬくと日の光を吸っている。然しここは既に海抜千メートル以上の高地で、高千穂河原という。
高千穂河原とは、往昔、高千穂噴火によって焼失した霧島神宮の古宮址なのである。今はこの古宮址の上手に、古式の祭壇が設けられている。石段を上った平場に、玉石が敷きつめてあり、奥の石畳みの中央に、巨大な自然石が三個立ててある。この祭壇の簡明清純さは、わが民族の潔癖性がわが民族の神性と繋がりを持つことを示してくれる。
祭壇の手前の砂原につき立ってる鉄管から、清水をくんで、腹の底まで冷徹になった思いをしながら、道を左手にとって、急坂にさしかかる。頂上まで二キロほど、最後の難所だ。
高千穂登山は、明確に三段に分たれ、三様の情緒を味わしてくれる。第一は、幽邃な天然林の中の山道だ。第二は、高燥な小松林の中の山道だ。第三は、急峻な登攀だ。この登攀がまた、三段跳びをなして
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