で話し合ったり笑ったりして、初めて彼の事情をよく知りました。
 彼は前年の春中学校を卒業して、将来の方針を立てるのに愚図ついてるうち、上の学校への入学期も過してしまった。そして兎も角農業をやってると、アメリカへ行ってる父と兄とから連名の手紙が、伯父宛に届いたのだった。内地で仕事をするにしてもまたはアメリカへ来るにしても、学問をしていなければ立身出世は出来ないと思うから、伍三郎には充分学問をさせてやってくれ、学費は入用なだけ送るから、とそういう文面だった。それで彼は、中学校の成績は余りよくなかったけれど、思い切って東京に出て勉強することになった。毎月五十円ずつ送って貰うことになっている。そして徴兵検査の関係やなんかもあるので、どこかの予備校にはいって勉強した上、来年の春商科大学の入学試験を受けるつもりでいる。――とまあ大体そういった話でした。
「どうせ来年入学試験を受けるのなら、今年も受けてみたらどうです。」と私は勧めてみました。
「初めから通る通らないは眼中におかないで、来年の下稽古のつもりで受けてみたら、通らなくっても残念じゃないし、通ったら一年もうかるわけじゃないですか。」
 然し
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