て、土色の唇がかさかさに皺寄っていました。私はまたそっと白布をかけました。
「昨夜夜中にふいに起き上って、国へ帰るんだと云って立上ろうとなさるんです。それを二人でようよう寝かしつけましたが、もう全く夢中でした。国へ帰りたいと譫言《うわごと》のように云い続けて、それからもう舌が廻らなくなって、二三時間後にいけなくなりました。」
夢をでもみてるような我を忘れた調子で、妻はそんなことを云いました。
西向きの古ぼけた六畳で、室の中が何だか薄暗く陰気でした。浅い床の間の書棚には、むずかしい哲学の書物と卑俗な小説の書物とが、変な対照をなしてぎっしり並んでいました。窓の障子を開くと、日の光を遮るほど鬱蒼と、大小種々の鉢植が並んでいます。更にその間から覗くと、眼の下に煉瓦塀があって、塀の外には低い古びた平屋根があり、その軒へ不細工につぎ足した新らしいトタン板が、露に濡れてきらきらと異様に光っています。
私はそこの窓際に腰掛けて、一寸言葉で云い現わせない気持に沈み込みました。平田伍三郎の儚い一生に対して何だか自分に責任があるような気がすると共に、誰もかもやさしくかき抱きたい気になったのです。そして
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