を赤らめました。
「なあんだい、それで恋でもしたというのかい。」
「いいえ恋はしません。」と彼は真面目くさっているんです。
「じゃあどうしたんだい。」
「どうもしません。」
「だってそれっきりというのは可笑しいね。」
彼は何か気に喰わぬことでもあるらしく、むっつりと口を噤んでしまいました。で私はそれ以上追求するのを止めて、他の話を――芝居のことなんかを――初めましたが、彼は余り気乗りがしないらしく、上の空で返辞をしながらもじもじしています。引留めたのが悪かったのかなと私は気がついて、暫くして尋ねてみました。
「つい話しこんでしまって……。君には連があるんだろう。」
「いえ……なに、いいんです。」
彼は一寸狼狽した風でした。で私はすぐに勘定を払って、彼と一緒に廊下へ出て、そこで左右に別れました。
「そのうちゆっくり遊びに来給いよ。」
「ええ、上ります。」
彼は首を垂れてすたすた歩いてゆきました。
私は仕方なしに、途中から座席につきましたが、芝居が更に面白くありませんでした。芝居よりも彼のことが深く頭に刻まれていました。それで幕間になって、方々を探し廻りましたが見付かりません。次の
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