それから暫くして、彼は真白な卓布に眼を据えて云いました。
「やはりあの庭のお影です。窓の外に一杯植木を並べて、私は一生懸命にその枝振をなおしたり水をやったり、木の間に頭をつきこんで、半日もぼんやりしてることがありました。すると、その窓の下に、煉瓦の塀越しに、よその家の室が見えるんです。薄暗い汚い宿でしたが、朝から晩まで、四十ぐらいのお上さんが、たった一人で縫物をしています。所が晩になると、薄汚い電燈が一つついて、古い不恰好な洋服を着た主人が戻って来ますし、その家に不似合なハイカラな娘が戻って来ますし、十四五の男の子も戻って来ます。そして皆で飯を食って、寝てしまうんです。それを二階の窓から見てると、実に変な気持がします。何だかこう、何もかもつまらないような……何もかも淋しいような……何もかも馬鹿げてるような……何もかも滑稽なような……実際変梃です。そして私があんまり覗いてたせいか、向うに顔を見知られてしまって、或る朝、植木の影から顔を出したとたんに、こちらを見上げてる顔とぶっつかって、ひょいとお辞儀をしてしまったんです。」
「誰とだい。」
「娘とです。」
 そして彼は不意に浅黒い顔
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