く腹がすく、」というようなことを云いました。すると平田は喫驚したように、「昼飯をあがらないのですか、」と聞くのです。「ええ、会社の高い弁当代なんかとても払えないから、二度しか飯は食わないんです。三度の飯も食えないとはこのことですよ。」所が、笑いながら云ったその言葉を、彼は本当にとったものと見えます。翌日[#「翌日」は底本では「習日」]彼は妻に向ってこう云ったそうです。「先生もお気の毒ですね。会社の弁当が高かったら、パンでも持ってお出なさればよいのでしょうに。」――そのことが、私の家の笑い話の一つとなりました。
 そういうことがあったものですから、牛蒡一本と里芋五合との件について、妻が前申したような風に解釈したのは無理もありません。然し私はそれを聞いて、彼の――平田伍三郎の――気持がはっきり分って、自分でも一寸変な心地になりました。
 母上
 田舎では食物は実に豊富です。牛肉と海の魚類とを除いては、凡てあり余るほどあります。米は何俵も蓄えてあるし、野菜物は畑から一度に畚《もっこ》一杯も取って来るし、鶏といえば必ず一羽ですし、川魚は何斤という斤目ではかります。そしてそれに応じて一度の煮物も
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