ですか。」
「それ、牛蒡じゃありませんか。」と妻は答えました。「晩のお惣菜ですよ。」
「これだけでですか。」
「ええ。なぜ。」
「それでも、先生と奥さん……、」と順々に彼は二人の子供から女中から自分自身まで数えて、「みんなで六人でしょう。」
「ええ、六人のお惣菜ですよ。それをあの里芋と一緒に煮るのですよ。」
「へえー、そうですか。」
そして彼はその一本の牛蒡と向うの五合ばかりの里芋とを、如何にも不思議そうに見比べて、さも感心したように云いました。
「東京の暮しはままごとのようですね。」
そのことを後で妻は私に話して、こうつけ加えました。
「屹度大変倹約だと思いなすったんでしょう。でも、うっかり冗談も云えませんので、挨拶の仕様に困りましたわ。」
この大変倹約だとか、うっかり冗談も云えないとかいうことについては、まるで嘘のような話があるのです。前に申すのを忘れましたが、平田伍三郎が私の家に来た翌日の晩のことでした。その頃私は胃が悪くて昼食をぬきにしていましたので、晩にはいつもごく腹が空いていました。その晩もやはりそうでしたから、何杯たべたかしらと妻に聞きながら、「昼飯を食わないとひど
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