で、役者の似顔絵のついてる羽子板を握りしめて、五十まで羽子をつこうと決心して、子供達がいなくなった後までも、一人で座敷の中を飛び廻ってる彼の姿は、滑稽の度を通り越していました。
それから幾日かの間、毎日羽子の遊びが続きました。彼が五十までつけたかどうかは聞き洩しましたが、その遊びのお影で、上の子は五十までの数を、下の子は二十までの数を、独りでに数えることを覚えました。
母上
それからも一つ、彼が私の家で興味を覚えた事柄があります。それは、台所に転ってる野菜についてです。
或る寒い雨の日、彼が例の通り半ば濡れ鼠になって学校から帰って来た時、何かの煮物のために、釜の下に火が燃えてたものですから、妻はそこに彼を招いて火にあたらしたそうです。冬になると瓦斯の出が悪いそうで、私の家では釜の下には薪を使うことにしています。で彼はその竈の前に屈みこんで、薪の火にあたりながら、田舎の土間と違ってすっかり板の間になっていて、その上に竈を据えて薪を焚く東京の台所に、感心したりなんかしていたそうですが、そのうちに、片隅に転ってる一本の牛蒡を取上げて、不思議そうに云い出しました。
「これは何になさるん
前へ
次へ
全48ページ中17ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング