の上等な万年筆を買ったりしていたのです。彼は習慣的というよりも寧ろ本能的に、毎日いくらかでも歩かずにはいられなかったようです。日曜日には必ず半日くらい散歩しました。
そういう風に歩くことの必要からか、彼は私の家にいる間は、一日も学校を休まなかったようです。けれども、大して勉強に熱心でもありませんでした。一つは、きまった勉強室がなくて、客間の片隅を使っているために、落付かなかったせいもありましょうが、「まだ一年あるから、」とゆっくり構えこんで、家では大抵子供相手に遊んでいました。
彼は至って子供好きのようでした。それでも、自分から進んで子供を遊ばせるというのではなく、ただ黙ってにこにこ笑いながら、子供の相手になってるのを楽しむという風でした。それを子供達の方ではいいことにして、彼を相手にいつまでも遊んでいました。丁度四つと六つの悪戯盛りで、時によると随分しつこく彼にふざけました。耳を引張ったり、鼻をつまんだり、ワンワンをさしたり、私共が見兼ねて叱りつけるようなことも度々でしたが、然し彼はどんなことをされても平気で、始終にこにこしていました。云わば彼は黙って子供達の玩具になってるのが面
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