等はその方へやって来た。馬の頭をつきつけられて急いで身をかわすはずみに、石の上に転んだ者が一人居た。五十位の老人だった。立ちかけて彼はまたよろめいた。そして着物の裾をまくってみた。向う脛に擦傷がついて血が流れていた。それを見ると兵士等は向うへ行ってしまった。大勢の者がまた集って来た。
田舎者らしい老人は眼を瞬《しばたた》きながら地面に屈んで、懐から穢い手拭を出して傷所を結えた。それから周囲の者をじろりと見上げたが、手の甲で鼻を一つすすり上げて、そのまま松住町の方へ去って行った。
ただじっと眺めていた周囲の人々は、彼が跛《びっこ》ひきながら立ち去ってしまうと、急に頭を上げて、向うを見やった。其処には巡査や兵士等が居た。
「馬鹿野郎!」と誰かが怒鳴った。
「恥知らずめ!」とまた誰かが怒鳴った。
「やっつけろ!」と低くはあったが鋭い声がした。
その時群集のうちから「わーッ」と一斉に声が上った。小石が二つ三つ向うへ飛んだ。巡査と兵士とが七八人駆けつけて来た。また「わーッ」と群集のうちから声が上った。巡査と兵士とは六七歩前に立ち止った。群集は徐々に退きはじめた。私のすぐ前に、帽子も被らない
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