橋の方から廻れ!」
 男はすごすごと退いた。皆それを黙って見ていた。
 暫くすると、橋の向うから七八人の者が駆けながら橋を渡って来た。巡査は何とも云わないで通さした。それを見て二三人の者がこちらから橋の上に進んでいった。私も急いでその後に随った。笹も咎めなかった。二十人ばかりの者は、橋を駆けて渡った。然しその後の者は、また巡査に堰き止められてしまった。
 橋の向うは街灯が粗《まば》らで薄暗かった。その薄暗い中に群集が溢れていた。大勢の巡査が街路の真中に立っていた。騎馬の兵士が時々往ったり来たりした。遠く広小路の方まで、それらの群集と巡査と兵士とが続いてるらしく思えた。
 橋の上で巡査と兵士等が何か相談をしていた。すると三人の騎馬の兵士が巡査等と協力して、電車通りを松住町の方へ群集を遂込み初めた。人々はなだれをうって退いていった。然しそれは後方の人に支え止められて遅々たるものだった。兵士等は馬の頭を人々の鼻先につきつけて、片端から一人残らず押し退けようとした。河岸《かし》に並んだ小屋の前に荒い石が積んであった。私はその石の上に上って小屋の戸口に身を避けた。大勢の者が其処に集っていた。兵士
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