分けて馬を駆けさしてる兵士を、驚異の眼で見守っていた。馬腹や足先で人の肩や帽子を擦過しながら巧みに疾駆し廻っている人馬は、よほどの熟練を経たものに違いなかった。「余り乱暴だ!」と叫んだ声が群集のうちに二度聞えた。然しそれきりまた静まり返った。ただ舗石の上に鳴る馬の蹄の音ばかりが高く響いた。
二人の騎馬の兵士が、その辺を二三度往復するうちに、電車道からはすっかり群舞が逐払われてしまった。一部は歩道の上に身を避けた。歩道に溢れた者は遠くへ逃げてしまった。
善良な穏かな群集だった。「米価騰貴」に困難を感じているらしい顔や「不安」に襲われているらしい顔は、一つも見られなかった。
騎馬の兵士が去ると共に、私は其処の角を離れて、ガードをくぐって万世橋の方へ行った。橋の向うから「わーッ」という大勢の人声がした。後は静かになった。
万世橋のたもとには、橋で堰かれた一群の人々が居た。橋の上に多くの巡査と在郷軍人とが、提灯を手にして番をしながら通行を止めていた。
一人の商人体の男が群から進み出て、巡査に何やら小声で懇願しているらしかった。巡査は手を振って大きい声で云った。
「いかん、いかん、昌平
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