切り取って、柔かくすべすべになるまでは、いつまでも気長にやっていた。
 厳めしい長い口髭や荒い髪の毛などが、朝日の光を受けて赤茶けて見えていて、大きな額の下に、太い眉根をきっと寄せ、片足を投げ出して身体を変な風にくねらせ、真面目に一心に足の皮を切っている、その姿を見ると、僕は滑稽な気がしたり悲惨な気がしたりした。そういう父は、いつも平素より年が老けて見えた。
 時によると、父は縁側に長く寝転んで、母や女中達に胼胝を切らせることもあった。そんな時は殊に気むずかしかった。手の指先で触ってみて、柔かくすべすべと平らになるまでは、どうしても承知しなかった。
「自分で切っても平らにゆく。お前達に出来ないわけはない。」
 そう云って、気に入るようにならなければ許さなかった。そして両足とも済んでしまうと、立上って一つ大きく伸びをして、愉快そうに云った。「ああ、これでさっぱりした。」
 父にとっては、蹠の胼胝を切り取ることは、髪を刈ったり入浴したりすることなんかよりも、もっと精神を爽快になすかのようだった。
 それにまた、切り取る皮は散らさないで、下に敷いた新聞紙の中にまとめなければならないので、それ
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