たものか分らないが、小さい時にその落葉を拾って遊んだという記憶はないし、その代り、末の妹なんかがそうして遊んでた記憶はあるので、多分僕の生れる頃に小さいのが植えられたのだろう。いや、僕が生れるより一二年前に植えられたのに違いない。なぜなら……。
 だが、それは先の話だ。公孫樹というものは早く大きくなるものだね。もう立派な大木になっている。
 その庭の隅の公孫樹を、父は大変大事にしていた。なぜだか僕には初め分らなかった。今でもよくは分っていないが……。
 父には妙な癖があった。足の蹠の胼胝《たこ》を丹念に鋏で切り取るのだ。月に一二回は必ず切り取らなければ承知しなかった。胼胝といっても、踵やなんかに出来るのではなくて、小指の根本の蹠に、五十銭銀貨くらいの大きさに、まんまるく出来るのだった。切り取ってもすぐに固くなる、固くなると歩くのに痛い、痛いよりも気持が悪い、それで月に一二回は鋏で切ってとるのだった。
 大抵日曜日やなんか、比較的朝遅く起き上る日、飯を食って新聞などを見てしまうと、それから、朝日のさしてる座敷の縁側で、ゆっくりと足の胼胝を切りにかかった。裁縫に使う握鋏で、少しずつ固い皮を
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