た。
初め僕はただ意外な驚きだけを感じたが、やがて変な胸苦しさを覚えてきた。いろんなことが綜合されて、一つの空想にまとまってきたのである。
僕はその奉書の紙を秘密にしまいこんで、いろいろ事実の調べにかかった。然しはっきりしたことは何も分らなかった。ただ断片的な事実を列挙すると、父は初め国から出て来て、祖母と二人で暮していた。それから、国許の従妹と結婚した。その結婚は僕が生れる一年半ばかり前のことだった。次に、その公樹という名前と、父が生前大事にしていた公孫樹、それ以外に何もなかった。然しそれだけのことから、僕の頭に一つの小説が自然と出来上っていった。馬鹿げた空想かも知れないが、僕の場合に立ったら、誰でもそうより外に考えようはないだろうと思う。
父は祖母と二人で暮している時、或る女と関係した……というより、恋をしたと云った方がいい。相手の女は、恐らく一時手伝いの女か女中か或は看護婦か、何でも家に親しく出入りした女に違いない。そう云えば、祖母がまだ生きてた頃、家にしばしばやって来て、祖母と話しこんでいった女がある。皆からお千代さんと呼ばれていた。祖母が亡くなってからはぱったり来なくな
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