の肉なんかとても食えない。彼が肉の煮えるのを待っているうちに、その肉は半煮のまま私達の口の中に消えてしまう。豆腐はもうとくになくなっている。忙しげに醤油や砂糖や炭火の方へ気を配ってる彼のためには、葱のむくろだけしか永遠に残らない。しまいに彼は箸を放り出して歎息する。
「君等のような意地汚い奴とは、もう決して肉を食わない。」
それが私達にはまた面白いのである。
「そう怒るなよ。君はどうせ酒を飲まないから隙なんだろう。まあも少し面倒をみてくれたっていいさ。」
そこで林原は益々憤慨して、飲めもしない自暴酒をやり出す。そして三人共酔っ払うことになる。
さて酔っ払ってしまうと、新関はいきなり懐の金入を私の前に投出して云う。
「君のと一緒にして、いいようにしてくれ。どこか暖かい気持のいいところへ行くんだ。」
林原までがそれに賛成する。
そこで私は、いくら飲んでも心底から酔っ払いはしないというかどで、女房役の方へ廻されて、乏しい三人の財布を手に握って、どの方面へ出かけたものかと、寒い冬の街路を頭の中に描き出すのだった。
*
ひと頃、私は高瀬俊郎君と屡々酒を飲み歩いたものである
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