た。
そして彼は益々無口に憂鬱になると共に、一方では益々人を見下すようになった。しようと思えば人間の一人や二人訳もなくひねりつぶせる、そういう感じが自然と表面にも出て、傲然と周囲を見廻した。そして実際、彼の膨大な体駆と憂鬱などこか獰猛な顔付とには、何となく人を押し伏せるだけのものがあった。彼の町でもまた向うの町でも、正面から彼に対抗しようとする者はなかった。彼は人々から恐れられながら、一人黙々として歩いていた。ただ自分の馬に対してだけはやさしかった。秣草や糠水などにもよく気を配った。
或る時、向うの町で、自転車に乗った男が子供を突き倒したことがあった。彼はいきなりその男を引捕えて、横っ面を張り飛してやった。貴様なんか殴り殺すなあ雑作もねえが……と云いながら眉をしかめて去っていった。
或る時、彼は平兵衛の店先に腰を下して煙草を吸っていた。すると隣りの家で、木の枝に縄を引っかけ、※[#「奚+隹」、第3水準1−93−66]の首を結えてぶら下げた。※[#「奚+隹」、第3水準1−93−66]は声も立て得ず宙に※[#「足へん+宛」、第3水準1−92−36]きながら、次第に弱っていった。それを
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