前を信じてる、などと顔色を見い見い云われた。外を通ってると、今迄威張りくさってた奴等までが、向うから道を譲って挨拶してくれた。
彼は俄に恐ろしい豪い者になったのを知った。何故だかはさっぱり分らなかった。そしてどうも工合が悪かった。
なあに構わねえ、やっつけてやれ。
しまいに心を据えて、昂然と反り返りながら、五六里先の町との間を、荷馬車を引いて往来し初めた。
四
向うの町にも彼の噂は伝わっていた。仲間の馬方達と飲み合う時には、四方から杯が集ってきた。面と向うと、三公兄貴と呼ばれることが多くなった。彼はそれに次第に馴れてきて、気に喰わぬことがある時には、太い拳を握りしめながら怒鳴りつけた。本当に腕力沙汰に及んだこともあるが、彼の強い腕っ節にかなう者はなかった。
然し平素は、彼は極めて無口だった。その上次第に憂鬱になっていった。荒い眉根をしかめてることが多かった。そして大抵早めに家へ帰っていった。
家に帰ってから、いつも酒を飲んだ。女房や子供達に対しても、ひどく無口に冷淡になってきた。一人でむっつりとやたら飲みをしては、酔っ払って寝てしまった。
彼のそういう憂鬱
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