には及ばないとか、お前さんに罪があろうとはこれんばかしも思ってやしないとか、お前さんは立派な申立をしてくれて有難いとか、そんなことをのべつに饒舌り続けた。そして彼の顔色を窺っては、云い直したり口籠ったりした。婆さんも室の隅っこに控えていて、恐る恐る彼の方を見ていた。じ……じ……じ……とかすかな音を立ててるランプの光が薄暗くて、しいんとした夜だった。表の街道には人通りも絶えていた。
「わし達のことを悪く思ってくれるでねえよ、なあ。」
「何で悪く思うもんか。ははは……。」
 突然の彼の笑い声に、老人達はぎくりとしたように身を引いた。息をつめて眼ばかり光っていた。その慴えた[#「慴えた」は底本では「摺えた」]顔付を見て、彼の方で喫驚した。
 俺をおっかながっていやがるな。だが……実際、殺そうと思やあ、こんな奴の二人や三人くれえ……。
 彼は落付かなかった。酒もよく廻らなかった。そこそこに辞し去った。
 何というこった、俺は……。
 その心持がいつまでも納まらなかった。
 町の旦那のところへ行くと、彼はやはり向うから弁解めいたことを云われた。お前は立派な人間だ、お前に罪なんかあるものか、私はお
前へ 次へ
全13ページ中6ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング