や穀類などの運送の荷は、部落といってもよいその小さな町にも、もう可なりたまっていた。
彼は不在中の老母の死を、さほど悲しみはしなかった。と云うよりも寧ろ、長い間病気で寝てた老母の死を悲しむ余裕が、余り残されなかったほど、彼は意外な驚きを他の方面に感じたのだった。
彼は先ず、平兵衛の家へ線香を持って、平吉の仏を拝みにいった。すると、彼が詫言を云わない先に、平兵衛の方からいろいろ云い訳を初めた。平吉がああなるのも前の世からの約束だったに違いない、こちらは何とも思ってはしないから、前々通り懇意にして貰いたい、全くお前さんの方に罪はない、罪があろうとは誰も思ってやしない……などと口説き立てて、酒肴の馳走をしてくれた。恕み小言を並べられるに違いないと思っていた彼は、張り合いぬけのした気持で、ぼんやり杯を重ねた。
煤けた三尺の仏壇に、小さな新らしい位牌がぽつりと立っていて、豆ランプがぼーっとともっていた。平兵衛は婆さんに云いつけて、豆ランプを消させ仏壇の開扉を閉めさした。そして彼へしきりに酒を勧めながら、町へ行ってる息子にはまだ大勢子供がいるから大事ないとか、いつまでも死んだ子のことを考える
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