だいぶ借りがあって、前々日酒のことで平兵衛と口論をした、ということが分った。結局腹が満足するだけ酒を飲まして貰って、仲よく分れたということは、余り足しにはならなかった。それから最も不幸なことには、そして不思議なことには、あの時平吉が黐竿を持っていたということを、誰も注意しなかったし、誰も気に止めなかった。最後に最も不運なことには、ぎょろりとした眼、荒い眉、狭い額、太い口、厚い唇、偉大な体躯、何かしら獰猛らしい感じのする肉体を、彼は生れつき所有していた。
 警察の方では、何かしら犯罪の片鱗というようなものを、彼から嗅ぎ出そうとしていた。そして事件は、片田舎特有の緩慢さで調べられていった。遠くの大きな町から、少しの微笑も見せない厳めしい顔付の役人が、書記を連れてやって来たりした。
 そして二週間ばかりして、漸く彼は一応放免された。その間に、病中だった彼の老母は死んでいた。

      三

 警察署から戻って来て、のっぽの三公は暫くぼんやりしていたが、やがてまた荷馬車屋の仕事をやらなければならなかった。女房と子供とを抱えていて貧乏で酒飲みな彼は、遊んでいるわけにはゆかなかった。そして材木
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