湖水と彼等
豊島与志雄
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)眼《まなこ》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)御|悠《ゆっく》り
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)小説1[#「1」はローマ数字、1−13−21]
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もう長い間の旅である――と、またもふと彼女は思う、四十年の過去をふり返って見ると茫として眼《まなこ》がかすむ。
顔を上げれば、向うまで深く湛えた湖水の面と青く研ぎ澄された空との間に、大きい銀杏の木が淋しく頼り無い郷愁を誘っている。知らない間に一日一日と黄色い葉が散ってゆく、そして今では最早なかば裸の姿も見せている。霜に痛んだ葉の数が次第に少くなることは、やがてこの湖畔の茶店を訪れる旅の客が少くなることであった。
冷《ひやや》かな秋の日の午後、とりとめもなく彼女が斯ういう思いに耽っている時、一人の青年が来て水際に出した腰掛の上に休んだ。
茶と菓子とを運んだ婢《おんな》に昼食《おひる》のあと片付けを云いつけて、彼女はま
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