故郷
豊島与志雄
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「もう遅すぎる、クレオンよ、わしの魂はもうテエベを去った。そして、わしを過去に結びつけていたあらゆる絆は断たれた。わしはもう国王ではない。富も、光栄も、我身さえも棄て去った、名もない一人の旅人に過ぎないのだ。」
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[#地から2字上げ](アンドレ・ジィド――「エディプ」)
こういう言葉のうちには、何かしら悲壮な魅惑的なものがあって、人の心を打つ。それは単なるセンチメンタリズムから来るのではない。
あらゆる仕事や人事関係を棄て去り、過去のあらゆる絆を断って、自分は名もない一人の旅人に過ぎないと宣言することは、而も真実に宣言することは、普通のセンチメンタリズムやヒロイズムを乗り越した境地からでなければ出来ない。そして、人生に対して真摯な態度を取れば取るほど、そうした境地に追いこまれることが多い。
だが、私が茲に云いたいのは、他のことである。即ち、あらゆる絆を断って、自分は名もない一人の
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