ろが、へんなことが私たち二人の間に起ったのである。
自分でもはっきり気付かぬまに、私は会社をなまけることが多くなった。澄江の方でも、宵のうちの忙しい時でさえ、店を休むことがあった。そして二人一緒にいさえすれば、それでもう私たちは満足だった。
私は自分の室に、まだそれほど寒くもないのに、炬燵をおこした。彼女と二人、食卓をはさんで坐っているより、炬燵にでももぐり込んでる方が、やはり気楽だ。そしてウイスキー一瓶に、チーズと塩豆、にぎり鮨、それぐらいなもので充分だ。
横坐りに炬燵に顔を伏せて、私は思う。埋め火のほかほかした温かみ、布団のしなやかな柔かみ、それが如何に人の心を和らげることか。私にとって、澄江は丁度そのようなものだ。
然し、澄江は全く別なことを考えていたらしい。
「わたし、くにへ帰ろうかと思うんだけれど……。」
だしぬけに言う。
彼女の郷里は秋田の田舎で、父や兄が農業をやってるのである。
「おかしいねえ。どうして、そんなことを思いついたの。」
返事をせずに、彼女は考えこんでいる。
「お墓参りだろう。そんなことは、若い者がしなくたって、年寄りにさせておくんだね。」
「
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