孤独などということを言い出せば、人は笑うであろう。誰だってみな孤独なことに変りはない。而も群集の中に於ての孤独だから一層仕末がわるい。電車でも満員、街路でも満員、住宅でも満員、オフィスでも満員、その満員の中で、各自にみな孤独なのだ。嬉しいことがあってにこにこ笑っても、どこか苦しくて眉をひそめても、誰も見向きもしない。大声にわーっと喚いてごらんなさい。誰かいたわってくれるひとがありますか。ただ物珍らしい見ものになるだけで、それもほんの暫しの間にすぎず、誰も彼も無関心に通り過ぎてしまう。感情が通じないのだ。言葉というものに表情や身振りまで含めて言えば、言葉が通じないのだ。人間が一人一人、ばらばらに孤立してしまったのだ。
なおその上に、私の孤独は、内気な恥かしがりからもきている。人なかで何か意見を述べることが、私には殆んど出来ない。いったい、独自の意見を持ってるかどうかさえ、自分にも分らないのである。それかといって、普通のこと、当り障りのないことも、なにか白々しくて言えないし、第一、場所と機会に応ずる適当な言葉が、頭に浮んで来ないのである。自分自身のそういう無能さ不器用さが、自分にもよく分
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