。とにかく澄江に逢わなければならなかったが、電話をかけるのも気が進まないし、朝から訪れるのもへんなものだし、もし彼女が帰っていなかったら恥さらしだ。
 今日になってみると、なんだか世界が変った感じである。感情も言葉もはっきりとは他人と通じ合わない孤独さ、而も多くの冷淡な視線だけを身に受けてるという佗びしさ、そういうところへ再び突き落された気持ちなのだ。澄江との愛情に包まれて、私はいい気になっていたが、澄江を失ってしまうと、私は以前にも増して一人ぽっちだった。なあに、一人ぽっちだって構うことはない。三十三歳まで生きてきたのだ。年若な女の感傷では、三十三の死を空想することもあるが、私としては……そこが実はぼんやりしていた。
 私は昨夜、夜通し、妄想に耽った。夢現の界目での妄想だった。そして白々と夜が明けそめる頃、はっと眼が覚める思いに突き当った。澄江のことだ。彼女はどうしてあんなに取り乱したのか。私も彼女も可なり酔っていたようだが、記憶に残ってることを一々跡づけてみると、私は重大なことを見落していたような気がする。男嫌いなどということについて、初めいろいろ甘っぽいことを考えていた私は、浅薄
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