。小さな手を差し出して、禿げ頭にそっと触れてみました。つるりと滑る感じでした。びっくりして手を引っこめましたが、頭はじっとしていました。美智子はまた手を差し出して、禿げた頭に、こんどは拡げた掌でさわりました。滑っこい冷たい感じがしました。
 その時、頭がぐらりところがって、夜具の襟から、お祖父さまの顔がぬっと出てきました。とたんに、美智子は、驚いたとも恐れたともつかず、息をつめました。次に、立ち上って逃げてゆきました。
 巳之助は茫然と、美智子の姿を見送りました。その泣き出しそうな顔付と、次で、小さな足袋の汚れた裏とが巳之助の眼にちらと残りました。それを心のように追っているうち、巳之助はふしぎにも、美智子から頭を撫でられたことを思い出しました。そして自分も手をあげて、はげた頭をつるりと撫でてみました。
 それまでのすべてが、巳之助には夢のようにも思われました。それを心で見つめていますと、時間が止ったような工合になりました。
「美智子ちゃん……美智子ちゃーん……。」
 中村家の子供が二人、庭で美智子を呼びました。美智子はその方へ行ったようでした。そして三人は椎の木のところに集ったようでし
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