。その石の落ちるのを、蝙蝠は追かけてきました。それを幹夫は狙いました。釣竿のような竹の先に、鳥黐をぬりつけたのを、力一杯うち振って蝙蝠を捕えようとしました。だが蝙蝠は、ひらりと身をかわしました。
或る時、その竹竿をうち振るはずみに、幹夫は転んで、石に額をぶっつけ、血を流しました。
千代子と、久江まで、大騒ぎをしました。幹夫をむりに寝かしておいて、医者を迎えました。
巳之助は、久江に相談されて、梟の剥製を探しました。震災で市街の大部分は焦土となり、莫大な死傷者が生じ、不安恐慌の気が漲り、生活の方途が混乱を来している際、巳之助は、救恤と復興との政治機関に働きながら、一方、梟の剥製を探し廻りました。やがて、幸にもそれが見つかりました。神代杉の細工枝にしっかりと取りつけたもので、羽毛が放射状に生えてる顔盤の中の真丸な眼が、生きてるように輝いていました。製作者自慢の義眼でした。
それを貰うと、幹夫は家中を駆けまわって喜びました。
椎の木の梟はいつしか忘れられ、剥製の梟が幹夫の最愛の友となりました。
そうした幹夫も、今ではもう三十歳になろうとしています。
――彼は椎の木のことを、何と
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