は見えないわ。」と千代子が言いました。「鳴き声も聞えないじゃありませんか。」
「さわがしいから、鳴かないんだよ。」
 幹夫の言う通り、遠いどよめきが、へんにむし暑い大気のなかに伝わっていました。
 そのどよめきが、次第に盛り上ってきて、火災は一粁ほど先まで迫り、昼間のように明るくなりました。明るくなると却って、梟の姿はもう幹夫にも見分けられなくなりました。
 屋敷内を見廻って戻って来た巳之助は、その話を聞くと、子供たちに言いました。
「火事の火で明るくなったから、梟はびっくりして、寝床に隠れたんだろう。お前たちも、もう眠りなさい。」
 然し、こんどは、子供たちは火事の方に注意を向けました。
 その後も、時々、梟が椎の木にとまっていると、幹夫は言い張りました。千代子は見えないと頑張りました。けれど、千代子も梟の味方で、蝙蝠を憎みました。蝙蝠が邪魔をするから、梟は椎の木に落着いていないのだと、彼等は考えました。そして蝙蝠を退治しようと苦心しました。夕方、薄暗くなりかける頃、見張っていますと、ほんとに蝙蝠がひらりひらりと、椎の木の蔭に飛んでることがありました。千代子は小さな石を投げ上げました
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