が注意を与えると、おとなしく眼をつぶりましたが、やがてまた眼を見開きました。そして久江はうとうとしている間に、二人の囁き声を聞きつけました。
「見えるの。」
「見えるよ。」
「どこに。」
「上の方、大きい枝の、先んところ。」
「あたくし見えないわ。」
 暫く言葉がとだえました。
「まだいるの。」
「いるよ。」
「うそ。」
「ほんとだよ。あの大きい枝……。」
 また言葉がとだえました。
 久江は半身を起しました。
「あなたたちは、何を言ってるのですか。何がいるのですか。いつまでも眠らないで、何を見ているのですか。」
 千代子が答えました。
「あすこに、椎の木のなかに、フクロウがいるって、幹夫さんが言いますのよ。ねえ、お母さま、お母さまにも見えますの。」
 久江は思わずつりこまれました。
「どこにいるのですか。」
 幹夫が元気よく答えました。
「高いところ……いちばん上の、大きな枝にいますよ。」
 久江は見上げました。こんもりした茂みで、梟の姿などは見分けがつきませんでした。然し梟といえば、夜なか、その声が聞えることがあって、茶の間から一同、耳を澄したことも何度かありました。
「あたくしに
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