をかけていた。
松木は穴の中に踏みこんで、その縁から次第に掘り拡げていった。案外隆々とした筋肉の上に、茂みを洩れてくる日の光が、明るく躍りはねた。発掘は容易らしく、上層の固い地面以外は、みな柔かな黒土で、膝頭ほどの深さになっても同じような土ばかりだった。穴はどこへいったか、掘り荒されて分らなかったが、やがて、がちりと鍬の先に音がして、小石交りの層となった。
「ほう、これは……。」
汗にまみれて、鍬の柄を杖につっ立った松木の眼は、異様に光っていた。
「いやに小石がつめてありますね。」
彼も思わず眼を光らして覗き込んだ。
「そしていやに固まってるんで……。」
小石の層に添って、松木は益々掘り進んでいった。それが次第に円く、径四五尺の円となった。周囲はみな小石がつまって固く、中だけ新らしい黒土で柔かだった。それを膝頭の上まで掘り下げた時、松木は穴から飛び出して、暫く首をひねって考えた。
「これは……何ですよ、屹度、古井戸の跡ですよ。」
「え、古井戸。」
彼も立上って穴を覗いた。
「古井戸を埋めた跡です。」
云われてみれば、全くそれに違いないらしかった。
「じゃあ、いくら掘っても駄
前へ
次へ
全45ページ中7ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング