かった大人びた魅惑を持っていた。
「私は一寸都合があって、よそへ越すかも知れませんが……。」
「え、なぜ。」
「なぜでも……。」
 眼の光だけが機敏に働いて、其他は全く子供らしく、ひょいと彼の肩につかまってきた。
「いや、越しちゃいや。あたしいやよ。」
「そんな、むちゃを云ったって……。」
「いいえ、いやよ。あたし一人になってしまうんですもの。……お越しなさるなら、あたしもついていくわ。」
「ついて来てどうするんです。」
「だって、あたし困るわ。一人っきりで……。」
「お父さんやお母さんがいるじゃありませんか。」
「いたって、やっぱり一人っきりよ。」
「そんなむちゃな……。」
「いいえ、いやよ、どうしたっていやよ。」
 光子は彼の肩を揺ぶり初めた。
「いいわ、そんならあたし、本当に井戸に飛びこんじまうから。」
「そして二階の三畳に隠れるんでしょう。」
「ええ、そうよ。」
 急に真剣な語気になって、彼女は眼をぎらぎら光らしてきた。
「どうしたんです。」
 彼女は黙っていた。
「怒ったんですか。」
「もういいわ、あたし、本当に飛び込んじまうから。」
 眉根をぴりぴり動かしてるその様子を、彼
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