をどうするんです。」
「大事にしまっとくの。」
「そんなことをすると、本当に叱られますよ。」
「大丈夫。誰も知らないから。」
「でも、枕頭に置いて寝たんでしょう。」
「いいえ。」
「ではどうしたんです。」
「誰にも分らないように、あたし、抱いて寝たの。」
「え、刀を抱いて寝たんですか。」
「ええ、毎晩抱いて寝て、朝になるとそっとしまっといたの。」[#「しまっといたの。」」は底本では「しまっといたの」]
「どこに。」
「そこの、三畳の、あなたの押入の中に。」
 嬉しそうな笑顔をして、眼をぱちぱちやってみせた。
「そんなことをしたので、私が刀のことをきいても黙ってたんですね。」
 うそうそ笑いながら、ふいに彼の首へ飛びついて来た。
「ねえ、あれあたしに頂戴ね。」
「上げてもいいけれど……。」
「下さるの。嬉しい。」
 彼の首をきゅーっと抱きしめて、それからひょいと飛びのいて、縁側の手摺を力一杯に揺っていた。
 母親に似た顔立で、円いくるくるとした輪廓だったが、母親よりも口元が引緊って、睫《まつげ》の長い[#「睫《まつげ》の長い」は底本では「睫|の長《まつげ》い」]眼が澄んで光っていた。耳の
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