の小さな短刀を取出して渡した。
「あら、これ刀ね。」
「ええ。」
気味悪そうに膝の前に置いて眺めてるのを、彼はしいて手に持たしてやった。
「枕頭に置いて寝ると、決して悪い夢なんかみないんですよ。」
「だって、見付るわ。」
「構やしません。私がむりに持たしたんだと、そう云ってごらんなさい。」
「叱られやしないかしら。」
「叱られたら、逃げていらっしゃい。私が云い訳をしてあげるから。」
「そう、屹度ね。」
「ええ。大丈夫。」
どんなことになったって構うものか、彼は変にびくびくしてる自分の胸に、自分で云いきかしてやった。
八
光子は悪夢をみることがないようになった。俄に元気に活溌になっていった。
「もう夢をみないでしょう。」
「ええ。」
「よく眠れますか。」
「ええ。よく眠られるわ。」
にこにこして彼の顔を見ていた。
「じゃ、もうあの刀はいいでしょう。」
光子は頭を振った。
「え、どうして……。あんなものをいつまでも持ってるものじゃありません。」
「だって、また夢をみると困るから。」
「その時はまた借してあげます。」
「いやよ、あれ、あたしに頂戴ね。」
「あんなもの
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