何か機会があったら、一寸したきっかけがあったら、ぶつかっていってやろうと思う、その思いだけで、自分はどんなことを仕出来すか分らないという恐怖が湧いた。
 房子も光子も隅の方にすくんでいた。
 その房子を松木は※[#「臣+頁」、第4水準2−92−25]でさし招いて、昼間から井戸に冷しておいた西瓜を切らした。そしてそれを彼へも勧めた。
「一寸腹工合を悪くしてますから。」
 やっとのことで彼はそれだけ云って、黙って西瓜をかじってる松木の前から逃げるように、二階の室へ上ってしまった。そして初めて安らかに息がつけた。
 俺は一体何をしてるんだ、と自分で自分に云ってみても、松木の前に出ると、彼はどうにも出来なかった。
 松木が家にいると、なぜか光子までが、二階にやってくるのに足音を忍ばしていた。そして彼のところへ来て、ほっと息をつくらしかった。
「やっぱり夢をみるんですか。」
「ええ時々よ。」
「じゃあ、私がいいものを借してあげましょう。これを枕頭に置いて寝ると、悪い夢なんかちっとも見ないんです。いいですか、そう思いこんで、ぐっすり眠るんですよ。」
 今迄躊躇していたが、彼は思いきって、一尺足らず
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