黙ってついていることがあった。彼はそうして彼女と二人で、話も遊びもしないで、ぼんやりしてることが好きになった。

      六

 光子は次第に痩せ細ってゆくようだった。殊に顔色が目立って蒼ざめ、額から頬へかけた皮膚が総毛立ったようになり、眼が黒ずんで変に光っていた。時折、動物園や植物園なんかに連れ出しても、余り喜ばなかった。
 彼は心配して、加減でも悪いのかと度々尋ねた。然し彼女は黙って頭を振るばかりだった。
「どこも何ともないわ。」
 しまいにそう云って、淡い微笑を浮べた。
 そういう光子の様子に、房子も心配し初めたらしかった。そして或る時、どうも光子が夜中によく起きるらしいと、不思議そうに彼へ話した。
 彼は驚いた。そしてなおよく尋ねたが、房子の話は更に要領を得なかった。夜中に、ひょいと布団の上に坐ることがあるけれど、それも夢中にするのらしく、またおとなしく寝てしまうのだと、ただそれだけのことだった。
「わたしがいくら聞いても、何とも云いませから、あなたから聞きただして頂けませんでしょうか。」
「そうですね……。」
 彼は曖昧な返辞をしたが、しきりに気掛りになってきた。然し光子
前へ 次へ
全45ページ中22ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング