てしまうんですよ。」
光子は彼の肩にすがりついていたが、しまいに泣き出してしまった。
「泣くんじゃありません。」
そう云いながら彼は、眉根を寄せ額に手をあてて、深く考えこんだ。
五
六七人の井戸掘人夫がやって来て、庭の奥の古井戸の跡を、また元通り掘り初めた。
彼は一人憤慨しながら、その気持を誰に持って行きようもなかった。松木に向って何とも云えなかったし、また房子に対しても、光子が後で叱られはすまいかという恐れから、つきこんだ話をするわけにはいかなかった。
そして彼は、折を見てはそれとなく房子の口から、大体の事情を探り出した。万事が凡て、松木の考えから出たもので、その計画通りになったものらしかった。松木は房子から、彼の夢の話と昔話とを聞き知って、一狂言仕組んで、差配に談判した。それにうかと差配はのせられてしまった。彼の素直な夢の話までが、却って反対の意味に役立つことになった。そして結局、怪談を内緒にするという条件で、家賃を向う六箇月の間多少減じて貰い、その上古井戸を掘り返して貰うということになったものらしかった。
彼は時々庭に下りていって、埋められた黒い土が掘
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