し喫驚して、いろいろ恐い夢の話を、一生懸命に、教った通り話したの。恐い夢の話を聞いて、その通りに思いこまなけりゃいけないって、そうお父さんに云われたから、あたし、夢にみたんだ、夢にみたんだって、しょっちゅう考えてたのよ。すると、何だか、本当にみたような気もするの。あたし恐いわ。」
彼女は眼をぎらぎら光らしていた。
「どんな夢です。」
それは馬鹿馬鹿しい夢だった。広い綺麗な庭の中に車井戸があったり、庭の古井戸の跡に赤ん坊の泣声がしたり、女の首がどこからか転ってきたり、其他いろんなことだった。然しどれもみな、彼が友人から聞いた昔話に基いてるものであることは、明かに見て取られた。
「そして、お母さんは……。」
「お母さんはね、あたしが叱られて泣いてると、お父さんと喧嘩をして、ひどく打たれたのよ。それからちっとも、あたしの味方をしてくれないの。」
「そして、夢をみたことは本当なんですね。」
「ええないの。………だけど、恐いわ。」
彼は光子を抱きしめた。
「私がこれからついてあげるから、もう夢の話なんか考えちゃいけません。ねえ、忘れてしまうんですよ。誰が何と聞いても、知らないと云って、忘れ
前へ
次へ
全45ページ中18ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング