をかけていた。
 松木は穴の中に踏みこんで、その縁から次第に掘り拡げていった。案外隆々とした筋肉の上に、茂みを洩れてくる日の光が、明るく躍りはねた。発掘は容易らしく、上層の固い地面以外は、みな柔かな黒土で、膝頭ほどの深さになっても同じような土ばかりだった。穴はどこへいったか、掘り荒されて分らなかったが、やがて、がちりと鍬の先に音がして、小石交りの層となった。
「ほう、これは……。」
 汗にまみれて、鍬の柄を杖につっ立った松木の眼は、異様に光っていた。
「いやに小石がつめてありますね。」
 彼も思わず眼を光らして覗き込んだ。
「そしていやに固まってるんで……。」
 小石の層に添って、松木は益々掘り進んでいった。それが次第に円く、径四五尺の円となった。周囲はみな小石がつまって固く、中だけ新らしい黒土で柔かだった。それを膝頭の上まで掘り下げた時、松木は穴から飛び出して、暫く首をひねって考えた。
「これは……何ですよ、屹度、古井戸の跡ですよ。」
「え、古井戸。」
 彼も立上って穴を覗いた。
「古井戸を埋めた跡です。」
 云われてみれば、全くそれに違いないらしかった。
「じゃあ、いくら掘っても駄目ですね。」
「駄目です。」
 うっかり云って顔を見合った。瞬間に、松木はひどく兇悪な表情をしたが、次にはアハハと高笑いをした。
「古井戸の上に金魚池を掘ろうとしたところで、とても……。」
 駄目だ、とはさすがに云いかねたものか、ぷつりと口を噤んで、それから急に腹立ったらしく、掘り起した黒土を元通り直しにかかった。
 土がすっかり元に直るまで、松木は一休みもしなかった。朝日の光を受けてる、その脂ぎった体力のよさを、彼は皮肉な眼で眺めていたが、何故だか、自分自身も一寸気持が納まりかねた。
 掘り返されたためか、土の不足も見せないで、地面は平らになった。
「ついでに一寸手伝って頂きましょうか。」
 松木はいきなりそう云い被せて、彼に手伝わせながら、円い自然石を庭の程よいところに据えた。それから更に不機嫌そうに、裏口の方へ行ってしまった。
 松木が手足を洗って銭湯へ出かけた後まで、彼は縁側に腰掛けて、ぼんやり煙草を吹かしていた。
 そこへ、房子がやって来た。
「あの穴は、何だかお分りになりましたの。」
「え、松木さんは何とも仰言らなかったんですか。」
「ええ、宅はいつでも、何にも聞かしてはく
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