いことを、次第に立証して行きつつある。そしてこの精神生活全体を描きたいという欲求が、文芸界に起ってきた。
 上述のような影響を受けた新らしい文芸が、普通の意識の世界ばかりでなく、更に広く深い潜在意識或は無意識の世界を重要視するのは、当然のことである。そして説明のための心理解剖から、描写のための心理的探求に変ってきたのも、当然のことである。
 例えば、超現実主義を瞥見してみよう。超現実主義は、普通に吾々が現実と看做してるもののも一つ奥の現実を信ずるもので、夢の世界の確実性と思想の独自な働きとを信ずるのである。夢というものは、吾々の無意識の世界が時あって吾々の意識に反映するものに外ならない。それをそのまま描こうというのだ。そして思想の独自な働きを尊重して、何等理性の拘束も加えず、修辞学的な配慮や道徳的な配慮を拒けて、思想の動くままに筆を走らせようというのだ。
 超現実主義の主唱者アンドレ・ブルトンは、或る晩、眠る前に、明瞭な一つの文句を耳にした。それは彼が意識していたあらゆる事柄と全く縁のないもので「窓で二つに切られた男がいる。」というような文句で、それと共に、窓で胴切にされて歩いてる男の
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