、これまで灰色の陰鬱なものだとせられてた壁の上に、日の光が戯れ、種々の色合が躍ってるのが、次第に見えてくる……。
そういうところから、新らしい眼で現実を見直すことになる。眼は感覚だ。そこで、新らしい感覚による探求の途が開かれる。自我を没却して現実の真に肉薄しようという態度から、自分の新らしい感覚によって現実に触れようという態度に変る。そしてその感覚をあらゆるものから解放された新鮮な状態に保つことが、第一の条件であり、その感覚で人生の現実を直接に感得することが、目標である。
少し極端な例だが、スペインの作家ラモンの短文を二三引用してみよう。――
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寝室にはいつも、釘で拵えたような小さな穴があって、そこから吾々は見張られている。誰かが吾々を見張っていて、決して視線を外らさない。
世界で最も恐ろしい響きはシルクハットの落ちる音だ。
電信局に夜遅くまで灯火がついてるのを見ると、重体な病人の室の灯火を見るような気がする……。はいっていって尋ねたくなる、いかがですかと、何か変ったことでもありますかと……。
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見ようによっては単なる思い付
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