たる私は、生家に帰ると、もう半ば都会人になっていた。しきりに散歩をした。自然の中のどんなささやかな事物にも、幼時の思い出を伴うので猶更、心惹かるるのだった。時折、都会からの来客があって大勢で外を歩くのが、私には嬉しかった。
 それらの客のうちに、私の好きな叔母さんがあった。美しい人で、言葉つきから挙措物腰まで静かで、笑顔までしとやかだった。何だか清く脆いという感じの人だった。――そういう印象を受けた中学生の私は、その人が大好きだった。
 その叔母さんと、小学生の娘と、私の母と、四人で、晴朗な午後、自然の中を歩くのである。先ず八幡様と地蔵様とにお詣りをし、それから広い河原に行く。清い流れには小鮎や鮠がはねている。河原には、丸い小石のところもあれば、きらきらした砂のところもある。
 叔母さんと母とは、即ち大人たちは、相並んで歩きながら、何の話もせず、黙ったままでいる。大人というものは、どうしてこう、黙って歩くのだろうと、それが私には不思議なのである。千代子――叔母さんの娘――に目くばせをすると、千代子も同感の目くばせを返す。少しおきゃんな気のかった、そして細そり痩せている娘なのだ。
「駆け
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