蒼なお顔をして……。」
云いさして彼女は俄に口を噤んだ。目玉の表面にぎらぎらした輝きが浮んで、顔全体からすっと血の気が引いていった。五秒……七秒……石のような沈黙が続いた。と彼女はふいにはらはらと涙をこぼしながら、それを自分でも知らないらしく、彼を見つめたまま口走った。
「あなたは、私を憎んでいらっしゃるのでしょう。私を……私のお腹の子を憎んでいらっしゃるのでしょう。そして、今のうちに、その子をどうにかしてしまいたがっていらっしゃるのでしょう。」
「え、今のうちにお腹の子を……。」
「ええ、そうですわ。そうですわ。口に出して云えないものだから、いろんな様子で私に悟らせようとなすっていらっしゃるのです。私に骨の折れる仕事をさせなかったり、うまい物を食べさせたりなすってるのも、本当の気持からじゃなくって、みんな皮肉に私をいじめるおつもりなんです。そして表面《うわべ》だけやさしくしながら、心のうちでは恐ろしい事を、口に云えないような恐ろしいことを、一人でたくらんでは私にそれを押しつけようとなすってるのです。私がいくら馬鹿だからって、それくらいのことは分ります。でも私、いやです、いやです。そ
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