。
「屹度あの骨壷《こつつぼ》が[#「骨壷《こつつぼ》が」は底本では「骨※[#「壼」の「亞」に代えて「亜」、58−下−13]《こつつぼ》が」]いけないんですよ。お葬式まで寺へお預けなさいましては?」
彼は取合わなかった。
「私もう嫌でございます。恐くって……戸を閉めにもはいられません。あんな所へ骨壷を[#「骨壷を」は底本では「骨※[#「壼」の「亞」に代えて「亜」、58−下−17]を」]お置きなすって、どうなさるおつもりなんでしょう?」
終りを独語の調子で呟いて、何かを見つめるような眼付をしていた。
しとしとと雨が降って、今にも雪になりそうな宵だった。
「じゃあどうしろと云うんだ?」
彼は突き放すつもりで、声の調子を尖らせた。彼女はひるまなかった。
「御自分でなさるのがお嫌でしたら、私が何処かへ片付けます。」
後は怒鳴りつけようとしたが、彼女の様子がいつになく真剣だった。まともにじっと彼の眼の中を覗き込んできた。
「俺がするよ。」と彼は叫んだ。
竜子の勝手にさせてなるものか!
彼は或る懸念に囚えられた。離れの室へ走って行って、押入を開いてみた。骨壷は[#「骨壷は」は底本では
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