。」
「僕には、どこかに、兄弟があるんでしょう。ね、あるんでしょう。僕逢いたいんだけれど……。」
 祖母はじっと、でも静に、私の顔を見ていましたが、ふいに、私を膝に抱きよせました。
「あなたは何を考えているんです。そんなことはありません。あなたには、あの亡くなった兄さんきり、兄弟はないんですよ。」
「うそ、うそ。兄弟があるんでしょう。ね、本当のことを聞かして……。」
「いいえ、兄弟はありません。……けれど、お父さんには、他《ほか》にもたくさん兄弟があります。」
 私はびっくりして顔を挙げました。
「僕は知らない兄弟があるの。」
 祖母は息をつめたように静かでした。眼が宙にすわって、夢をみてるもののようでした。今迄よりもずっと美しい祖母でした。
「話してあげましょう。お父さんは、お殿様のお子さんですよ。わたしが御殿につとめていました時、お胤を宿して、そのままこちらへお嫁入りしてきたのです。分りますね。だから、あなたもそれを忘れないで、立派な人にならなければいけません。」
 何だか知らない熱いものと冷たいものとが、いっしょに私の心の中にはいってきました。父一人がお殿様の子供だったのか。よく
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