は分らないが、ただ漠然としたその事実だけが胸にきて、私は祖母の胸にすがりついて、涙ぐみました。祖母は私を抱きしめて、いつまでもじっとしていました。私は父の顔をはっきり描きだしました。広い温厚な額、高い鼻、美しい長い口鬚、恥しそうな笑顔……ほかの兄弟――伯父さんたちと違ってる顔でした。
「誰にも云ってはいけませんよ。あなた一人にだけお話するんですから……。」
 そして祖母はまた長い間私を抱きしめてじっとしていました。
 私が鼻をかんで、黙って離れますと、祖母は三組の杯を丁寧に箱に納めました。そして私たちは土蔵から出て来ました。外の光がまぶしく思われました。
 そのまぶしい光に眼も馴れると、私はひどく力強くなった気がしました。もう何の秘密もないんだ。私は何もかもみな知ってるのでした。
 私は家敷の中を歩き廻りました。青竹を切って弓矢を拵えたりしました。
 みよ子が遊びに来ると、私は云いました。
「お祖母さんに聞いたよ。僕には兄弟はないんだって……。」
 みよ子は眼をくるくるさせました。
「僕は一人っ児なんだ。君とも姉弟じゃないよ。」
 みよ子の眼が大きくなって、それから小さくなって、涙がぽ
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